2014年12月31日水曜日

サンフランソウキョウ工科大学、そして浪速大学(仮名)

先日、話題のディズニー映画「ベイマックス」を観てきた。
公開中の映画なので詳細は秘すが、友情、兄弟愛、そしてロボットと人間の関係を暖かく描く佳作であった。

と、ひとまずは当たり障りがなく顔を洗ったようなことを書いておこう。
いや、本当によかったしお勧めして回りたい気持ちはやまやまなのだが、今回ここで書きたいのはこの映画の本質部分に関することではないのである。

とはいえ、以下はちょいと、いやかなり本作のネタバレを含む記述になる。
個人的には本質的なネタではないと思っているが、まだ本作をご覧になられておらず、尚且つネタバレダメゼッタイ、派の方におかれましてはここで回れ右をされることを推奨する。

よろしいですか?

よろしいですね??

では始める。
(一回しか観ていないので事実関係に過ちがある可能性があります。何かお気づきの点がありましたらご一報頂けると幸甚です)

本作には、主人公ヒロの兄、タダシが通う「サンフランソウキョウ工科大学」なる大学が登場する。
ヒロは所謂天才少年で、大学なんかいって学ぶことなんぞないよ、と嘯いている可愛げのない男子である。
そんなヒロを、タダシはだまくらかして自分の大学に連れて行く。

そこでヒロが見たものは、天才の彼にさえ思いもよらなかった実験や発明に興じる学生達の姿であった。
レーザー誘起プラズマを用いたカッターでリンゴを途方もなく薄くスライスしたり、電磁サスペンションを使った反重力バイクを開発したり、化学反応で突拍子もない物質を作ったり。
(注:ここに書いたことはパンフその他の引き写しで、筆者には皆目意味は分かりません)

その後兄タダシの作った高性能ケアロボット、ベイマックスに「出会い」、更に天才の自分を歯牙にもかけぬキャラハン教授に接するに至り、ヒロは最初の醒めた態度はどこへやら、この大学に入学して学びたい!と強く願うようになるのである。

この一連のシーンを見ていて私は、ああそうだった、かつて高校生だった頃の私が憧れていた大学というのはこういう場所だったんだよな、と思い出していた。
学ぶという欲望の起爆装置を内在する機関としての大学。
そこが見せてくれるものは、「今の」自分では理解することができない無数の事象である。
途方もない叡智の塊のような教授連、自分よりも遙かに賢い先輩や友人。
そして今まで学んだこともない学問の数々。
そんな人や事物が溢れている(と想像しつつ)、自分がまだ知らぬ学びの場に進もうとしていた時の昂奮に似た感情を、朧気ながら久方ぶりに味わったことであった。

さて。
先日、母校が連日、某全国紙に一面広告を打った。

一日目の広告には、胸元でおおきくバツ印を組んだ総長の写真に被せ、「3位じゃだめなんです。」と書かれた文字がでかでかと踊っていた。
二日目の広告には、母校の今後10年のヴィジョンが時系列の図を以て描かれていた。
最終年の2024年には、母校はなんと「世界トップ30以内に入る」らしい。

これらを見たとき、まず最初に思い浮かんだのは
「これは一体、誰に対する広告なのか?」
という疑問であった。
これに関して、広告責任者の方がツイッター上にて以下のように答えていらした。

1.兎に角話題に上ること(つまり、名宛人云々は想定せず周く全ての人)
2.教師、保護者(「受験生の多くが志望大学を教師,保護者からの勧め(口コミ)で決めるという事実がある」から、という記述あり)

1.に関しては、ご存じの通り本広告は(ツイッター上では)色々と物議を醸し、不肖末端の私にまでこんなブログ記事を書かしめる所以となったので、まずまず成功されているとはいえよう。

2.については、まず前提条件に疑問がある。
旧帝大受験を視野に入れるレヴェルの受験生の「多く」が、果たして教師、保護者からの働きかけで志望校を決めるのであろうか。
また、仮にそうだとして、この広告を見た教師や保護者が果たして母校を生徒や子供に勧めるものなのだろうか。

「おお、素晴らしい。某大学は今は3位らしいが頑張ってランキングを上げるらしいぞ。是非受験しなさい」
「まあ、10年後には世界トップ30に入るんですって?あなたも大学、ここにしたらいいんじゃない?」

…正直、私には想像し辛い。

次なる疑問は
「この広告によって何を訴えたかったのか?」
ということであった。
前述の広告責任者氏は、「口コミ効果を狙って刺激的なキャッチコピーとした」と語っていらしている。
そして、「キャッチが勝ちすぎているのでその部分が一人歩きしていることは否めない」とも仰っている。
「3位じゃだめなんです」というキャッチに関しては、広告の中身をよく読んで頂けると実は順位なんてどうでもいい的なことが書いてあるんですよ、とのことであった。

私は大学が広告を打つこと自体には反対ではない。
しかし、大学の広告というものは実にむずかしいものである。
大学が効果的な広告を打つためには、まずは大学のイメージ戦略、ブランド戦略(嫌な言葉だが)がしっかり確立されていることが肝要で、尚且つ発信するキャッチ、媒体、文言がそれらを正確に伝達すべくするどく吟味されていることが求められると考える。
(後者は勿論、どの広告でも同じであろうが)
ただ、母校のような巨大総合大学に於いては、どちらも至難の業だと思う。

しかし、上責任者氏の言葉を見るに、そのような覚悟は感じられない。
本人が仰有ることを鑑みるに、まず今回の広告は何はさておき「人目を惹くこと」を目的としているようである。
センセーショナルな「3位じゃだめなんです」の見出しは確かに目を惹く。
所謂「つかみ」はOKだ。
しかしそのインパクトの代償として、「この大学はランキングを上げることを至上目的としているのであるな」という印象を強く与えるのは否めないところであろう。
いやいや、(細かく書かれた)中身を読んで下さいよそうではないんですよ、というエクスキューズは、かような誤解を惹起することを百も承知で敢えて打ちだした「確信犯」たる広告人が陳述するには些か卑怯であると思われる。

しかし、責任者氏に対する責めはあくまで前述の「キャッチその他が(大学が意図するブランドやイメージを)を正確に伝達すべく吟味されているか」という条件に関してのみなされるべきである。
では、大事な前提条件である、「母校が広告によって打ち出したいブランド乃至イメージ」とは何なのであろうか。

私は一日目の「3位じゃ云々」広告は画像でしか見ていないが、より詳しい内容が書いてあるという二日目の広告は手に入れたので、(正直苦痛ではあったが)目を通してみた。
ざっと内容を概説すると以下の通りである。

1.21世紀の大学の役割
2.「世界適塾構想」について
・未来戦略機構っての作ったよ
・これを更に発展させてグローバル社会のトップリーダーや研究者育てる世界適塾作るよ
・留学や教員招聘の数値目標作るよ
・クォーター制(3学期制)にするよ
・異文化統合研究を基盤とする世界適塾大学院を設置するよ
・来年の環太平洋大学協会では、なんとうちがホスト校だよ!
・海外の4拠点強化するよ
・カリフォルニア大の大阪オフィスをうちに作ったよ
3.人材の行き来
・うちの国際ジョイントラボは成果上げつつあるよ
・共同研究先の教授クラスには年間1ヶ月以上もいてもらうよ
・それによって学生同士の行き来も増えてるよ
・今このラボ22拠点だけど2023年までには100拠点にまで増やすよ
・2019年には混在型学生寮の世界適塾ヴィレッジってのつくるよ
4.〆の言葉
・適塾で学んだ塾生が明治維新ののち新しい社会を作っていったように、世界適塾で学ぶ学生さんも次の時代を切り開き輝かせることを宣言するよ

なんだかんだいって殆どの内容を箇条書きにしてしまった。
概説できぬ雑な頭ですまない。

さて、一読して、皆様はどのような印象を持たれただろうか。
私は、「対文科省プレゼン文書」、という印象を持った。
そう考えるとこの文章には、文科省の錦の御旗、「グローバル化」を具現化する方策があちらこちらに、いやほぼ全てに散りばめられており、官僚的には百点満点、非常に出来の良いプレゼンであると思う。
「うちはグローバル化するべくあんなことやこんなことをしています!」
という一行に要約できる話を、具体的な例を挙げつつこの長さに仕立て上げるのはなかなかの手練れの者と見た。
もう少しぶっちゃけて言うと、対お上提出文章作成に長年苦しめられてきた書き手(教員)の姿が透けて見える文章であった。
合掌。

しかし、一般人に訴求すべく打ち出した「広告」の文書として眺めればどうだろう。
へえ、留学や教員招聘の数値目標作るんだ。
(…で?)
環太平洋大学協会ってなに?
(私も素で分からない)
国際ジョイントラボって?
(私も素で(以下略))

前述の文科省云々は私の下衆の勘ぐりにしても、少なくともこの文章は一般人を名宛人として想定したものではないと断ぜざるを得ない。
だが、もし本気で一般人へのアピールを意図して書かれたのだとすれば、正直書き手の想像力に絶望するしかない。

そして、先程も書いたとおりこの文章が言いたいことは要約すれば「グローバル化します」に尽きるのだが、これは皆様ご存じの通り、日本、いや世界的な大学の潮流であり、謂わば「これから求められる、最もスタンダードな形態の大学になります」という宣言に過ぎない。
その宣言のどこに訴求力があるのだろう?
しかも、たかが日本3位(これも異論は多々あるが、それはさておき)の大学の宣言が?

結論として、私はそもそも母校は広告なんぞ打つ段階に至っていない、と考えるものである。
今の母校には悲しいかな、1位や2位になれる見込みもなければ、他大学と一線を画くビジョンもブランドもない。
そんな大学が広告を打ったところでなんの訴求力があるだろう。
私の内に微かに残っている(そして、前述の通りサンフランソウキョウ工科大学を見て久しぶりに惹起された)大学への信仰心(?)はてやんでえ、大学にビジョンもブランドも要らんわ、といきり立つのだが、流石にこのご時世で大学がかように泰然とできるとも思えない。
例え旧帝大と雖も、(広告するか否かは兎も角)真剣に独自戦略を打ち出さねばならない時代である。

では、母校はいったいどのような戦略を立てればよいのだろう。
あるとき、高校生にどのように母校のアピールをしますか?と問われたことがあり、数分考えてううむ、すみません、分かりません、と答えたことがある。
胸の中では、
「本校は、あらゆる面でトップまでとはいかずもトップに近い人材を輩出することができます。だから例えば企業が不祥事を起こしても、本校の卒業生は頭を下げるような面倒なポジションにつかずにすみますよ」
なんて答えが浮かんでいたのだが、勿論こんなこと夢いっぱいの高校生にお話しする訳にはいかない。

だが、実はそれがウリになる時代が来ているのかもしれない、という気もしている。
母校の前総長はリーダーシップも大事だけどそれを支えるフォロワーシップも同じくらい大事なんだよ、ということを説いておられたが、ひょっとすると万年3位(或いはそれ以下)の母校卒業生が輝く道はそこにあるのかもしれない。
企業人然り、研究者(はちとキツイかな…)然り。

しかしこんな茫漠とした話では「戦略」とはほど遠いし、広告を打てるような訴求力も勿論ない。
なのでもう少し真面目に考えると、トップになれぬ、もといトップになる途上(一応そういう設定にしておく)にある地方大学が打てる戦略としては、ありきたりではあるがニッチな研究者、研究分野を広く集め多様性を確保していく以外ないのではないかと思う。
例えば統合した旧外大のアセットである多種多様な語学専科、例えば第一人者がおられるロボット工学、例えば目や心臓に特化したiPS再生医療etc…
もっと理想をいえば、大阪という土地に特化したなにか(なにか、の具体例は私には思いつきもできませぬが)をそれこそグローバルに通用するものに錬金して世に出す、なんて研究ができればより一層の独自性を打ち出せるであろう。

広告責任者氏は(何度もお名前出してすまないけれど)関西以外、特に関東の教員・保護者・学生をターゲットに考えておられたようだが、幾ら広告を打ったところで、関東で母校レヴェルの学生さんが高いコストを払い下宿してまで関西の母校に来るということは考えにくい。
そんな子たちは普通、早慶、一橋、東工大、はたまた東北大あたりに進学するだろう。
彼らが様々な困難を乗り越えてまで母校に学びにくるとすれば、やはりその一番の動機は「ここでしか学べぬことを学びたいから」しかないのではあるまいか。

(少し余談になるが、そして「勝ち」だ「負け」だの下世話な話になるが、本当に関東圏の学生確保を狙っているのであれば、広告でランキングなどをメインに打ち出したのは愚の絶頂というべきであろう。
特にこの先生のこの研究を学びたい!という熱意溢れた学生以外(大多数であろう)は、ふーん某大は3位なんだ、じゃ近所の4位の大学の方が総合的(金銭的負担etc)に見ていいんじゃないの、となると思う。普通は。
3位である、というランキングを俎上に持ち出すと地方大学は「負ける」に決まってるのだ)

サンフランソウキョウ工科大学とヒロとの出会いは、理想である。
所詮ディズニーが描く絵空事、と偉い人は笑うかもしれないが、でも大学はやはりこんな風に学びたい学生に夢を与える装置であって欲しいな、と私は願っている。
その反面、存続の為には時には企業の如くシビアな戦略を打たねばならぬ時代であるのも、また事実である。
知の殿堂たる大学、特に優秀な頭脳が揃う我が母校であれば、どちらかに軸足を置きすぎることもなく、したたかに両者の要請をクリアしていってくれるのではないか、と期待している。
(そもそもこれらは相反するものでもない)
それができれば、そも広告なんぞ必要はない。
そう、ウチはこれだけ頑張ってます!と外部(特に文科省)に目配せするような広告は、ね。

そして最後の最後で皮肉らずにおれない私は地獄行きである。多分。

とまれ、一年の最後にこんなとりとめもない長文にてお目汚し、大変失礼致しました。
そして最後まで読んで下さった方にはささやかながら祝福を捧げます。
どうぞよいお年をお過ごしください。

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