それは、小学校に上がってすぐの頃だったと記憶する。
誕生日プレゼントに貰った少年少女用世界文学全集の中に『シャーロック・ホームズの冒険』なる一冊があった。
快刀乱麻を断つが如く難事件を解決するホームズおじさん(そう「おじさん」だったですよ当時は)にすっかり魅了された私は、遂には諳んじる程に繰り返し繰り返しその巻を読んだものであった。
この巻に収められていたのは『まだらの紐』と『青い紅玉』(表記は「青いルビー」であった。恐らく子供向けの意訳だろうが)の二作品であった。
最初に読んだこれらの作品は、長じた後も長く私の中の輝け!ホームズ譚ベスト5リストに入れているほど愛好しているのであるが、それはそれとして『まだらの紐』に関してはすこし妙な先入観がある。
どうも私は、『まだらの紐』は非常におっかない話である、寧ろホラーに近い、というイメージを植え付けられているようなのだ。
そりゃまあ未知の毒蛇が凶器だったというオチ(さっくりネタバレすみません)は確かに子供にゃおっかないが、それならもう少し大きくなってから読んだ『バスカヴィル家の犬』の方が数段おっかないし、また同時期にこれまた夢中になった江戸川乱歩ものの方がよっぽどホラー的である。
そんな訳で長年、どうして『まだら』だけにこれほど強烈な印象があるのか不思議に思っていたのだが、先日本屋でこれを見つけて疑問が氷解した。
ひょっとしてと思い、手に取りぱらぱらとめくってみたら大正解。
これこそ間違いなく、私が最初に出会ったホームズ本であった。
版こそ変われどまだ売ってるんだなと感慨深く思い、買って帰った。
(嗚呼またホームズ絡みの出費である)
家に帰って改めてつらつら眺めてみた。
まずはマイトラウマ作品、まだらの紐である。
冒頭から子供向けにしたら挿絵がなんかおかしい。
そして、ロイロット博士がインドで召使いを殴り殺し刑務所に入っていた場面の挿絵。
怖い怖い
で、クライマックス、博士が娘を殺そうと差し向けた毒蛇に逆に噛まれ死ぬシーン。
怖い怖い怖い怖い
ああそりゃそうだ。
この挿絵が最初の出会いなら、そらトラウマにもなるわうん。
と深く深く納得したのであった。
因みにこの挿絵画家さんは鈴木義治さんと仰る方らしい。
主に絵本や児童書の挿絵画家として活躍されたらしいが、wikipediaによると
「鉛筆と水彩絵の具を用いた柔和なタッチが特徴」
だそうだ。
…柔和??
ざっと絵柄を拝見したが、個人的には柔和というイメージではなく、なんというかかなり個性的な作風の方であるようにお見受けした。
とまれ、この本が私にとってのホームズ氏との初めての出会いであった。
爾来前述の通り長年愛読しているのであるが、まさか40歳手前で21世紀版ホームズ譚にきゃーきゃーいうことになるとは想像だにしなかったことである。
げに人生とは不思議な巡り合わせに満ちている。
さりげに自己肯定的ニュアンスを含ませた綺麗なオチと相成ったところで今日はこの辺で。
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