- 人にいやなんです
あなたの行ってしまふのが—花より先に実のなるやうな
種子より先に芽の出るやうな
夏から春のすぐ来るやうな
そんな理屈に合はない不自然を
どうかしないでゐて下さい
型のやうな旦那さまと
まるい字をかくそのあなたと
かう考へてさへなぜか私は泣かれます
小鳥のやうに臆病で
大風のやうにわがままな
あなたがお嫁にゆくなんて
いやなんです
あなたの行ってしまふのが—なぜさうたやすく
さあ何といいませう—まあ言はば
その身を売る氣になれるんでせう
あなたはその身を売るんです
一人の世界から
万人の世界へ
そして男に負けて
ああ何といふ醜悪事でせう
まるでさう
チシアンの描いた絵が
鶴巻町へ買物に出るのです
私は淋しい かなしい
何といふ氣はないけれど
ちやうどあなたの下すつた
あのグロキシニアの
大きな花の腐つてゆくのを見る様な
空を旅してゆく鳥の
ゆくへをぢつとみてゐる様な
浪の砕けるあの悲しい自棄のこころ
はかない 淋しい 焼けつく様な
——それでも恋とはちがひます
サンタマリア
ちがひます ちがひます
何がどうとはもとより知らねど
いやなんです
あなたのいつてしまふのが—
おまけにお嫁にゆくなんて
よその男のこころのままになるなんて(『人に』高村光太郎)
そう。
いやなんです。
あなた(ジョン)がいつてしまふのがーああそこのブログを覗きに来て下さったあなた、どうぞ逃げないで。
ここからは只のSherlock、加えて正典(コナン・ドイルのホームズ譚)のGeek(オタク)の戯言なのですから。
いやいや余計逃げるわ、とか言わないで。
(とかいいつつ、ここからはSherlockのS3(season3)の重大なネタバレを含みますのでご覧になりたくない方はここで弊ブログをお閉じになってください。ブログのたたみ方とか知らないネット音痴で申し訳ない。あ、でも、所詮ファン初心者のいう「ネタバレ」ですので、普通にtumblrなどやっておられる中程度〜ディープなファンの方ならとっくにご承知のネタか思います。)
いいですか?
いいですね??
では始めます。
もう随分前のことになるが、S3の3つのエピソードのテーマは「Rat」「Wedding」「Bow」だよ、というコメントが制作者から発表されており、真ん中のWeddingはまあやっぱりあれだよねジョンの結婚だよね、という話は定説化されていた。
と思う。
でもそんなの嫌だ、ジョンはシャーロックと一緒にずっと221Bで暮らしていて欲しいんだ、というファンは大変に多く、その中にはごくごく普通の、だが揺るぎない友情関係を想定する人もあれば所謂"slash"関係を妄想する人もあるのだが、とまれこの一派はまあそうは言うけどあのひねくれ者揃いの制作陣だ、だから何かどんでん返しがあるに違いないという希望的観測を抱いていた人が多かったように思う。あくまでネット上の印象だが。
しかし、S3のロケが始まり制作サイドの公式情報が流れるにつれ、この大本営(って何だ)の旗色はどんどん悪くなっていった。
まず、S3の新キャストの一人がアマンダ・アビントンであったこと。
アマンダさんといえば言わずと知れたジョン役マーティン・フリーマンのパートナーである。
このときにまず第一陣の動揺が走ったが、それでもいやいやでもまだ彼女がメアリー(『四つの署名』でジョンと結婚する女性ね)と決まったわけじゃない、あっそうだ、ひょっとしたらハリー(ドラマのオリジナルキャラでジョンの姉)じゃない?とかいう涙ぐましい解釈も流れたものであった。
そして、S3E2(エピソード2)のタイトルが「三つの署名」であると発表されたこと。
これはもう『四つの署名』のパロディとしか考えられない。
更には制作陣のかようなツイートが流れたとき、我が「シャーロック」ツイートリストは悲鳴に似た呟きで埋め尽くされた。
Lovely day for a wedding #sherlock twitter.com/suevertue/stat…
— sue vertueさん (@suevertue) 2013年4月22日まあこれはどっから見てもウェディングゲストへのプレゼントですわな。
なんですけど。
私は見てしまったのですtumblrで。
幾ら何でも、タキシード着た男性とウェディングドレス着た女性がキスしてたらそれはもう結婚式だと思うんですよどうポジティブに足掻いてみても。
確かにちゃんと「これはspoiler(ネタバレ)だよ」と親切に書いてあった記事を地雷と知りつつ踏みにいった私が悪いんですそうなんです。
でもその決定的写真を見た後は、お恥ずかしながら暫し魂が抜けてしまった。
(大概恥ずかしい告白ですねこれ)
そう、先程からポジティブな否定意見(ヘンな言い回しだが)ガー、などと揶揄するかの如く書いてきたのだが、それ全部私のことでした本当に申し訳ございませんでした。
という訳で、ファンの中では「まあしょーがないよねジョンが幸せになるなら」「嫁がアマンダさんなら仕方がないよね」等という諦観ムード、及びもう少しポジティブにジョンが結婚しようとしまいと話が面白けりゃいいのよ、二人が冒険を続けてくれればいいのよというムードが主流となっている←いまここ、というところのように思われる。
皆様、大変大人で大変物分かりがよくて素晴らしいと思う。
思うんですけどね。
それでも私は、やっぱり彼が結婚するの、嫌なんです。
大慌てで言っておくと私は決して彼等二人の仲が友情以上の、その、なんだ、深い関係になることを望んでいる訳ではない。
そういう意味ではなく、あの二人はやっぱり一緒に暮らしていて欲しいなあと思う、ただそれだけなんである。
一緒に暮らしてなくば、徹夜で本を調べまくったり(S1E2「The Blind Banker」ね)朝起きたらシャーロックが枕元に立っててとっとと起きろ依頼人来てるんだって言われることもない(これは正典の…ええと、なんだっけ?)
そりゃ離れていても一緒に冒険はできますよ。
けどやっぱりどうしたって一緒に暮らしているときよりも微妙な距離感が生じることは否めず、そのことが私は残念でならないのだ。
それは昔々私がまたいたいけな(強調)少女の頃、正典に夢中になっているときにも不満に思っていたことだ。
どうしてジョンはこんなに面白い目に合わせてくれる(遭わせてくれる、かもしれないが)友人をほっぽりだして結婚なんかしたんだろう、とずっと訝しく思っていた。
結婚することがジョンのトータルな人格にとっては幸せでー、とかその方が彼を人間的に成長させてくれてー、とかいう大人な解釈に与する余裕は当時はなかった。
今もない。(きっぱり)
で、話は冒頭の高村光太郎の詩に戻る。
この詩はご存じの通り、見合い話が出た将来の妻、智恵子さんに向けて書かれたもので、「それでも恋とはちがひます」とか書いてあってもいやいや嘘つけお前、とつっこみの一つも入れたくなるのだが、私の心情、というかシャーロックに仮託した私の心情は今も昔もこんな感じである。
いや、「それでも恋とはちがふ」という光太郎の建前を文字通り受け入れたとして、と注釈をつけるべきかもしれない。
(ややこしくてすまない)
何がどうとはもとより知らねど
いやなんです
あなたのいつてしまふのが—
そう。
いやなんです。
物分かりがいいふりも諦めのいいふりも昔からできなかったし、今もできない。
やっぱりジョンが結婚するのは嫌なんだ。
嫌なんだったら。
2013年5月2日木曜日
いやなんです
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