とある暑い日のお昼前。
「美味しいビールが吞みたい」
と母上が宣われた。
無論、酒飲みの私にも異論のあろう筈は無い。
「かしこまりました。場所はどこに致しましょう?」
「ミュンヘンがいい」
「おお、あの唐揚げとビールが美味しいミュンヘンですね
(典型的読者様向け説明口調)
それではお初天神へ…」
「やだ」
「」
「あそこまで歩くの暑い」
「いや、暑いからビールを吞みたいのでは…」
「暑いのやだ」
「…」
「大阪駅ビルに新しくミュンヘンできたやろ。そこにしよ」
なんで母上がそないなイケてる情報を知っているのかと訝しみつつ大阪駅へ。
サウスタワービルとやらに昇ろうとすると、このような集団を見つけた。
言わずと知れた、最近都市部でよく見かける出自不明のゆるキャラ集団である。
やけに遠景なのは、流石にいい大人がかぶりつきで撮影するのは如何なものかと思ったからである。
寄ってこられても困るし。
てか逃げるし。
かように、この日の私は柄にもなく理知的であった。
なのに、ああそれなのにいつになく素早い足取りで走り寄る団塊の世代の女性一人ありにけり。
ええ勿論母なのですが。
「ちょ、なんで近寄るの」
「だって可愛いやない」
しかしながら、母はゆるキャラがテレビに映っているのを見る度に
「まー、こういうの一億総白痴化っていうの?こんなもんばっか持て囃して。
これじゃ日本の未来は危ういわねー」
と池上彰のような賢しげなことを言う人なので、この行動は大変に意外であった。
#全然関係ないが、「白痴」を頑として変換してくれないATOKのPCぶりに乾杯である。
ゆるキャラは、当然ながら近寄ってきてくれた人には老若男女お構いなしににこやかに手を振ってくれる。
それを眺めつつ母上はぼそりとこう言った。
「暑いやろな」
何をそんな当たり前のことを、と思いつつ娘は答えた。
「そら暑いよ、中の人は」
「なんか、そないな労力かけてこんなん着てるんねんやろね。アホみたいやな」
「しっ、声が大きい」
「なあなあ」
母は更に目を輝かせてこう宣った。
「あの子ら、みんな順々に足引っ掛けたったらどないなるやろ?
おもろいやろうなあ」
テロリスト(未遂)を引き摺るようにして目的地のサウスゲートタワーへ。
取り敢えず冷え冷えのビールでも吞ませて黙らせることにしよう。
レストランフロアのミュンヘンに辿り着き、まずは一杯。
向こうに見えるは母上のご尊影である。
ここに来たらなにはなくともこれを食べねばならない。
名物、阿波地鶏の唐揚げである。
ピースが非常に大きく、且つ勿論揚げたてで供されるので、即ち軟口蓋への危険極まりない凶器といっても過言では無い。
(事実この日も若干損傷を受けた)
用いられているのは地鶏の胸肉で、さっぱりとしたベースの肉の味わいとしっかりとした味付けの衣が相俟ってついついがぶがぶと食べ過ぎてしまう。
で、当然ながらこれがまたビールと合うんだ。
これまた名物だという蟹爪のフリット。
私は初めて頼んだのだが、あ、これは、えーっと、その、あの、的なお味であった
(婉曲的表現)
他にもポテトフライだの何だのと結構ボリューミーな料理を頼みお腹いっぱいになったのだが、その後母がビールで煮込んだカレーを食べたいようと駄々を捏ねるので無理無理と宥めるのが大変であった。
団塊の世代は、概して行動力も食欲も我々アラフォーを遙かに凌駕している。
その後母娘はバーゲン行脚と洒落込んだのであったが(洒落てませんね)ふと気づくと夜の帳が降りており、父もこの日は出張であったので、じゃ何か食べて帰りますかねということとなった。
「何食べたい?」
「ビール」
「…またですか」
「吞みたいの。暑いし」
「いや、ビールは分かった。
取り敢えず何食べたいって聞いてるんだけど…」
「ビールに合うもの」
「…かしこまりました」
と言うわけで向かったは淀屋橋近くの「ベルジヤンカフェ」。
昼間のドイツビールとは趣を変え、ベルギービールでも吞んで頂こうという算段である。
言わずと知れたヒューガルテン。
「ああ、白ビールね、白ビール!懐かしい!」
もう20年近く前、本邦においてベルギービールなどがまださほど知られていなかったころ、母上と二人ベルギーを訪れビールを吞みまくったことがあった。
その頃は銘柄も分からず、おお、白いビールじゃと有り難がって吞んだことを思い出す。
往時茫々。
今じゃこんなにメジャーになるとは思いもよらなんだ。
ましてや毎年全国区でイヴェントまで開かれるようになるとはねえ。
(上、勿論今年も参戦しましたよ)
ベルギー産(!)フライドポテト。
なんと原材料のポテトはベルギー直送だという。
そんなに違うもんかね、と怪しみつつ食べると成る程確かに旨い。
昼のミュンヘンで食べたポテトよりも数段上である(ごめんねミュンヘン)
ほうれん草とベーコン(だったか)のキッシュ。
そこそこ旨い。
ムール貝キャセロール蒸し。
ムール貝に関しては、先日某大阪スパニッシュ有名系列店で、なんですかこの子達は全員栄養失調ですか?というようなモノを供されて以来店で頼むのは避けていたのだが、ここは一応ムールを売りにしているだけあってそれ程可哀想なものは見受けられなかった。
でももっと粒が大きいのが好みだなあ。
味は少々塩辛かったがさほど問題ないレヴェル。
ビールのつまみとしてはありだろう。
それほど満腹でなければバケットを追加注文してスープに浸して食べたところだが、如何せんここでお腹が行き着いてしまったので泣く泣く諦めた。
なのに、母ときたら
「なあ、追加で仔羊食べへん?」
と言い出すので恐れ入った。
※仔羊はメニューにありません
この人の胃袋は底なしか四次元か。
以上、おかあさんとビールでした。
(かわいらしく言ってみたつもり)
この母にしてこの娘あり。
今年もまた我が家では大量のビールが消費されることであろう。
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