東京滞在最終日である。
この日は再びF嬢と渋谷ヒカリエで待ち合わせをした。
共通の友人への結婚祝いを買うためである。
暫し物色した後、「SABON」なるお店で色々詰め合わせて貰うことにした。
SABONとはイスラエルのボディケア、バスグッズメーカー。
死海の塩を使ったボディスクラブが人気であるらしい。
…なんてことを当然「この」私が知る訳もない。
こういう店自体に入ることも皆無なので、プレゼントを包んで貰っている間中物珍しく商品を見て回った。
人気のボディスクラブを手の甲で試させてもらい(店内にはそれ専用のでっかい流し場がある)、おおーいい匂いー、つるつるー、と感動する。
…よし、私ももういい歳なんだし、こういうケア用品をセット買いしてひとつ「いい匂いがするおねえさん」というものを目指してみようかの。
でもまあここ、大阪にも店あるみたいだし、今は荷物になるから今度買いに行こう。
なんてことを決意してみたりしたのだが、あれから2週間、買いに行く気配は全くない。
(他人事のように)
Amazonの「欲しい物リスト」に「SHERLOCK」(またかよ)のジョンが使っていたのと同じSIG SAUER P226のエアガンを放り込んでどうしようかな、買おうかなと日々悩む私のような女には所詮縁のない品なのであろう。
とまれ、送り先の女の子は女子の理想型を絵に描いたような子なので(元CA、花のような美人、性格良し、頭良し)ここのラグジュアリーなギフトはきっと喜んで貰えたと思う。
買い物終了後、恵比寿に向かった。
そう、ここでランチを食べるためである。
って遠景過ぎてなにがなんだかわからんではないか。すみません。
私達の目的地はあの、遙か奥に見えるお城である。
そう、あの「ジョエル・ロブション」である。
ええい皆の者控えおろう。
その昔、前身の「タイユバン・ロブション」に行ったときには、やっぱり東京はすごいところだなあ、和食はやはり京都の方が頭一つ抜きんでてると思うけど、フレンチとかのヨコメシ※はやっぱり首都のレストランが秀でているよなあと口惜しいながら感心したものであった。
※ヨコメシ:昔は英語その他のとつくにの言葉を喋らなければならない憂鬱な外人接待食事会のことを指したけど、今じゃ欧米系お食事一般を指すようです(メニューが横文字であることに由来するそうな)
数年後、そのタイユバンがクローズしたと聞いて寂しい気分になったのであったが、その後継(でいいんですよね?)のジョエル・ロブションがオープンしてから後は既に大阪住みであった故機会がそうそうなく、興味ありつつも行けずじまいであったのだが、この度、F嬢がお誘いしてくれたので目出度く積年の思い(大袈裟ですが)を果たせた次第である。
少し早く着いたのでウェイティングスペースで待たせて頂く。
赤と黒のコントラストが印象的なバーである。
待つこと暫しでダイニングルームに案内された。
タイユバン時代の記憶は往時茫々で思い出せぬが、派手すぎず荘重すぎず、しかし華やかでクラシックな雰囲気のいかにもザ・フレンチ!なインテリアである。
死ぬほど当たり前の話で恐縮だが、美味しいものを食すときにはその「場」の雰囲気は大変に重要である。
東京ではこのところ「○のフレンチ」などという店が大人気だそうだが、おばちゃんはもうおばちゃんなので、安いからという理由でフォアグラを立ち食いなんぞしたくはないのである。
お金が無ければそこそこの美味しいカレーやラーメン食べてりゃ満足です、おばちゃんは。
閑話休題。
席について暫し、メニューを眺める。
どうせだったらスペシャリテが食べられる一番よいコースにしようよね、とF嬢と意見が一致し「MENU PLAISIR」をオーダーする。
(以下、いつもと違い写真はありません。流石にここで写真を撮るのはないわーと思いましたので。しかし結構ばしゃばしゃ撮ってる方いらっしゃいましたな)
・ロワール産ホワイトアスパラガス エスプーマにして ブラッドオレンジのジュレと共に
所謂アミューズ・ブーシュである。
昨日に引き続いてホワイトアスパラだ、と密かにテンションがあがっていたのだが、供された皿の上にあったのは如何にもアミューズ的な小ぶりの器、そしてアスパラの写真であった。
…
えー。
大事な事なので先生もう一度繰り返しますねー。
アスパラのねー。
写真がねー。
お皿の上に置いてあったのねー。
…
…
え?聴き取れなかった?
じゃあ先生もう一度言うからねー。
ここテストに出るからねー。
とか小芝居の一つでも打ちたくなるくらいにそれは衝撃的な眺めであった。
流石は天下のジョエルロブション、凡人の考えからは及びもつかぬ演出をしてくれる。
でも誠に申し訳ないことながら、一瞥したときには正直何の吉本ギャグかと思いましたごめんなさい。
わーこりゃ美味しそう!
って食べられへんがなー!
(サーブして下さったメートルドテルさんをナプキンですぱこーん)
とかいうリアクションをせねばならぬのか、等と暫し悩んでしまった。
#嘘ですよ念のため
肝心の料理はアスパラそのものではなく、エスプーマ(泡)状のアスパラをブラッドオレンジのジュレと共に頂く趣向であった。つまり料理名通りである。
このエスプーマがまたアスパラをぎゅっととことん濃縮しきったかのような、いや事実濃縮したであろう深い深い味わいでございましてな。
この僅かな量のムースに一体どれだけのアスパラが費やされていることやら、と思いを馳せたことであった。
・特撰生雲丹 甲殻類のジュレになめらかなカリフラワーのクレーム
名高いジョエル・ロブションのスペシャリテである。
丸いガラスの容器には宝石のようなジュレ、生雲丹、クレームの層が重なり、クレームの表面には器の円周に沿っててん、てんと針でつついたように細やかな、しかし目にも鮮やかな緑のパセリのソースがあしらわれていた。
感想は兎に角「濃い」。
濃厚極まりない甲殻類のジュレ、それを迎え撃ち決して負けることのない雲丹の芳醇な風味、そしてそれらをふんわり包みつつも埋もれてしまうことなく一歩も引かぬカリフラワーのクレーム。
こういう一皿を目にし食する度に、フレンチの傑作料理というものは当に人の叡智の結晶だなと思う。
勿論フレンチに限らずともよいのだが、味わう度にその一皿の裏にあるであろう夥しい智慧の蓄積を慮ってしまうのはやはり圧倒的にフレンチに於いてである。
ここらへんでパンが登場。
まずは小さな小さなバゲットが供される。
両端がすっと細くなったスリムなバゲットである。
食べるとほどよい酸味が私好みで、思わずにんまり笑ってしまう。
(ここで可愛らしくにこっ、と微笑むことができていれば人生色々変わっていたのだろうが生来のスペック故どうにもならない)
そうこうしている内に世にも素晴らしいワゴンがやってきた。
掌サイズよりもう一回り小さい位のサイズの夥しいパンが溢れんばかりに積み上げられたワゴンである。
なんて素敵なの!とF嬢と共にうっとり愛でていたら、すかさずメーテルドテル氏が
「一家に一台欲しいですよね」
と笑いかけてこられた。
うん、確かに欲しいけど。
天蓋の付いたベットで微睡んでいるときに
「お嬢様、お目覚めですか」
とか、磨き上げたシルバーのポットに入った珈琲と一緒にロマンスグレーの執事に運んできて貰いたいけど。
でもまあそうなりゃ一週間でデブまっしぐらだな。
とか思わずマジレスしそうになったほど、それは魅惑的な眺めであった。
とりあえず、
・塩味のブリオッシュ
・エンドウ豆のパン
・アンチョビのクロワッサン
・クルミとカマンベールのパン
を頂く。
(とりあえずにしちゃ頂きすぎだが)
ちょっとずつ色んなもの食べたいの!という我が儘なお嬢様達も大満足間違いなしのラインナップである。
味の方も言わずもがな。
普段は料理が食べられなくなるから、とパンは遠慮がちになるのだが、こんなに旨いパンを看過できる筈もなく、気づけば全て食べ尽くしていた。
パン一つ取ってもかように抜かりがない、どころか非の打ち所がない。
恐るべしジョエルロブション。
さて料理に戻ろう。
・フォアグラ プランチャで焼き、パルメザンチーズのリゾットと共に
F嬢は常日頃からこう言う。
「私、レバー類は駄目なんです。
でもね、脂肪肝は大丈夫なんです」
「脂肪肝言うな」
かように贅沢なF嬢もご満悦であったこのフォアグラの一品。
プランチャ(スペイン語で鉄板焼きの意の由)された(でいいのかしら調理法の語彙の用法)フォアグラと濃厚パルメザンチーズリゾットの組み合わせという、ある意味構成要素を見ただけでなんとなく味の想像ができてしまう「分かり易い美味しさ」の料理である。
しかしそこは流石はジョエルロブション。
これまた兎に角旨味が「濃い」のだ。
イタリア人がよく自分のほっぺをぐりぐりして「Buono!」といいますでしょ。
なんというか、あの場所にぐいぐいっと効く味なのですがお分かり頂けるだろうか。
そして、幾らスプーンを口に運んでも運んでも飽きるということがない。
ここらへんが所謂B級グルメの「分かり易い旨さ」との決定的な分水嶺である。
・アイナメ アーモンドパウダーを付けポアレ レモンの香るブリオッシュのムースリーヌとケイパーのクーリ
バターの風味がたっぷりで兎に角濃厚なアイナメのポアレ。
なのに重さを全く感じず、ひたすら旨味だけを堪能できるのはどういう魔法に拠るものなのだろうか。
これまたバターたっぷりの筈のブリオッシュ・ムースリーヌとの相性も最高に良い。
ハルモニアってこういうことなのかしら、と等と思いつつ白ワインが止まらない。
・特撰牛フィレ肉のトゥルヌード エシャロットクーリとアスパラガスを添えて
よっ待ってました、な肉のメイン。
只の「特撰」ではない。ジョエルロブションの「特撰」である。
ひとくち頬張る毎に口角がくいくいっと上がるのをどうにもこうにも止められぬ。
そのうち口裂き女になってしまうかと恐れるほどの申し分なき美味であった。
そもそも私はマトンやジビエや山羊肉といった癖のある獣肉が大好物でメインで滅多に牛を選ぶことはないのだが、その私をしてうむ、やはり肉というものはつきつめると最後はやはり牛肉に終わるのであるなと思わさしめるとはお主大したものよのう
(余りの旨さに頭やられました)
赤身のコク、脂身の厭味のない甘さ、それらのマリアージュ(一度使ってみたかったこのフレーズ)は当に肉の宝石箱やー、であった。
ワインは当然赤にシフトす。
酒が飲めぬがグルメな人も当然いるし、美味しくお料理食べてるんだろうけど、でもやっぱりそういう人と一緒にご馳走食べるとなると何かしら違和感あるんだよね私達、とF嬢と話しつつ美酒を嗜んだ。
やはり旨いものと酒のマリアージュ(もうええわ)って素晴らしい。
少なくとも、私は酒が飲めるタチでよかったと思う。
(少々度は過ぎるが)
食べ終わった頃、またもや素晴らしいワゴンが登場した。
今度はチーズてんこもりのワゴンである。
さんざ悩んだ挙げ句、ブルーチーズとシェーブルからそれぞれ二種類選ぶ。
はい、臭いチーズ大好きです。
ブルーはロックフォールとフルム・ダンベール(確か)
シェーブルの銘柄は忘れたが(もとい元々知らないが)、どれもこれも普段そこいらで買って食べるものよりも、なんというか格が違った。当たり前ですが。
・Avant Dessert
デザート前のお口直しである。
それなのに、ああそれなのに何が出てきたか失念してしまった。
やっぱり時間が経つとあれだけ感動したものでも記憶は薄れるものであるな。
なにかのソルベになにかのジュレがかかっていたのだが…
(何も説明していないに等しい)
・ダリア ライム風味のチーズケーキ、フリュイ・ルージュのクーリとバジルのグラス
爽やかな柑橘類の薫り高いチーズケーキにベリーのソース、そしてバジルのグラス(アイスクリーム)。
またもやその色彩、そして計算され尽くした味わいに脱帽す。
このスイーツ嫌いの私が食べ終わるのが名残惜しくなったというだけでその逸品ぶりが分かろうというものだ。
特にバジルのアイスクリームには目を瞠らされた。
これ、もう少し甘さを控えてカプレーゼに添えたりなどしたら…
(想像だけで悶絶)
・Mignardises
食後のカフェと共に出される小菓子。
小さなマカロンとショコラであった。
そして最後に、キャンディポットが運ばれてきた。
パパブブレの金太郎飴キャンディで、中には「Merci」の文字。
最後まで心憎い演出である。
余談だが、パパブブレはスペインはバルセロナのキャンディー屋さんで日本では中野に店舗がある。
てっきり東京にしか売っていないものだと思い込んでおり、今回土産にもしたのだがその後京都の雑貨屋で普通に売られておりかなりがっかりしたことであった。
とまれ、これにて大大大満足のランチは終了。
お腹ははち切れそうだけど胸焼け凭れは一切なかった。
極上のご馳走は幾ら食べてもすっと入るものなのだというのは敬愛する開高健氏の言であるが、その域にまではまだ至らぬとはいえ(それは単に私のキャパの問題であろう)これだけ食べているのに苦しくならないというのは(文字通りの意味で)有難く素晴らしいと思う。
担当して下さったメートルドテルさんのつかず離れずのサービスもまたよかった。
F嬢が何故メニューのフランス語と日本語の説明には違いがあるのですか?日本語の方が随分詳しいようですが?という質問をしたときには、
「フランス語メニューはシェフが書くもので非常に簡潔ですが、日本語のメニューは「意訳」してより詳しく、ときには原メニューには記載がないフランス語の調理法も敢えて片仮名で書いたりもします。
何故なら、お客様がこれはどういう意味ですか?とお尋ね頂くことをきっかけに我々サービスの人間とのコミュニケーションをとって頂ければと考えているからです」
とのお答え(かなり意訳入ってますが)が返ってきて、おおお、流石はエクセレントな返答だわと感心したことであった。
…正直、ちょいとこじつけ感は否めぬが。
以上で私の東京ショートトリップの全予定は終了した。
何度行ってもやはりおのぼりさんは楽しいものだ。
調べてみると、これからも関西圏には巡回せぬ美術展は多々あるようなので、またもや足繁く上京せねばならないようだ(困り顔しつつガッツポーズ)
F嬢と美味しいものを食べるのが今から楽しみである。わくわく。
0 件のコメント:
コメントを投稿