「コリオレイナスとその時代」、長く(本当に長く!)なりましたが、最後までお読みくださり誠にありがとうございました
とはいいつつ、ここまで辿り着いた方がいらっしゃるのかどうか甚だ疑問ではありますが…
とりあえず、コリオレイナスの時代は皆様のイメージされるであろう古代ローマ時代(恐らく紀元後の帝政期)よりはうんと前であること、そしてそれが故に若々しく荒々しい時代であったということだけでも感じて頂けたら幸いです。
ところで、これだけつらつら書き連ねておきながらなんなのですが、コリオレイナスという人物は実在しなかっただろうと考えられています。
(本文でも少し書きましたが、彼の「氏族名(ノーメン)」、マルキウスは貴族のものではなく平民のそれであった等、お話の中に幾つかの矛盾点があります)
個人的には、彼のお話は平民と激しく対立した貴族や秀でた戦士、敵に寝返った戦士など、複数の実在モデルを元にできあがった人物譚ではないかと考えています。
かようなモザイクを創り、ドラマティックな色付けを施すことによって語り手が語りたかったことはなんだったのか、ということは5章「コリオラヌスに見る古代ローマの「美徳」−ウィルトゥスとピエタス」で考察(というほど大そうなものではないですが)したとおりです。
しかしその意図は、シェイクスピアによって「二次創作」され『コリオレイナス』という戯曲となったとき、根幹は変わらぬものの(と私は思っています)、様々なディテール、ニュアンスが変化しました。
そして、この戯曲が実際に演じられるときには、当然ながら演者により、また演出家により更に違ったコリオレイナス像が姿を現します。
トム・ヒドルストン、その他の演者がどのようなコリオレイナスを見せてくれるのか。
従来培われてきたイメージはどう変化し、また変化しないのか。
私も皆さんと同じく、わくわくしつつ幕開けを待っています。
最後に、コリオレイナスをきっかけに古代ローマに興味を持たれた方におすすめの本のご紹介をしたいと思います。
(一般的なローマ本)
『ローマの歴史』
モンタネッリ著(中公文庫)
一押しです。
これはもう、黙って読んでください(高飛車)
文庫にしては分厚いですが、通史を知る入門書としてはコンパクトにしてぴか一です。
ユーモアを交えた軽快な語り口調も魅力的。
古代ローマたって、今更塩野七生読めないわ(巻が多すぎて)という方にもってこいです。
『古代ローマ1万5000キロの旅』
アルベルト・アンジェラ著(河出書房新社)
ローマの版図が最大となったトラヤヌス帝の時代、産み落とされたセステルティウス貨が広大な領土を転々とする様を追ったノンフィクション的フィクション。
(詳しくは手前味噌ですが此方をお読みください)
絶頂期古代ローマの雰囲気をたっぷり味わうことができます。
(もっとコリオレイナスの時代を知るために)
『ローマ建国史』
リウィウス著(岩波文庫)
少々、いやかなり読みにくいですが謂わば「基本書」です。
しかし残念なことに中、下巻は未完です。
(訳者の先生がお亡くなりになったそうです)
『プルターク英雄伝』
プルターク(プルタルコス)著(岩波文庫)
旧カナ使い、絶版と二重苦を背負ってはおりますが、ご存じの名著です。
此方もまた読みにくいので、下手すると英語版のほうが分かりやすいかもしれません。
(kindleで1冊200円程で手に入れることができます)
シェイクスピア『コリオレイナス』は本著3巻、「ガーユス マルキウス コリオラーヌス」伝(原文ママ)を元に書かれています。
『プルターク英雄伝』は古代ギリシアと古代ローマの2人の人物を選び出しそれぞれについて叙述したのち2人を対比し批評する、という形式をとっています。
(故にこの本の正式名称は『対比列伝』といいます)
コリオレイナスと比されているのはアルキビアデスという人物です。
彼もまたコリオレイナスのように敵国に寝返るのですが、美丈夫で口が立ち、なんとなく陽気な人物(という印象です)なので随分と印象が違います。
男前なのに舌ったらず(訳には「レロレロとものを云う」とありました)で、若いときにはモテモテで(男に)、恋人(勿論男)のもとに出奔したりしていましたが、ソクラテス(勿論男)を師と仰ぐようになってからは心を入れ替え、いつも一緒に行動し、戦いに出れば師は弟子を庇い、とまあBLネタの宝庫のような御仁でありました。
(このアルキビアデスについては、またの機会に何か書いてみたいと思っています)
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