※以下はオリジナル英語版によるネタ探しです。
6月7日に放映された吹替版とは一部異なるところもあるかと思いますがご承知おきください。
・チャールズ・オーガスタス・マグヌッセン(マグヌスン?):E3のヴィラン
→『犯人は二人』(『恐喝王ミルヴァートン』とも。以下『H』とする)のヴィラン、チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートンより。
原作での風貌は
「50絡みの男で、大きく賢そうな頭の持ち主で、丸く肉付きの良いひげのない顔にはつねに冷たい笑みが浮かんでおり、金縁眼鏡の奥の鋭い灰色の目はきらきらと輝いていた」(意訳)
と描写されている。
他に太って背が低い、という記述もある。
E3のマグヌッセンは身長190cm越えで痩身、目は美しい緑色で髭ありだったので随分と造形が違う。
・レディ・エリザベス・スモールウッド
→原作に該当する名前は見当たらず。
『H』内、名は明かされないが、復讐の為ミルヴァートンを殺害する高貴な夫人がモデルか。
この夫人は手紙(夫人の手紙か夫の手紙かは明らかではないが、恐らく前者)をネタにミルヴァートンに強請られるも、要求に答えなかったためその手紙の存在を夫に知られるところとなり、結果夫は自殺(若しくは心労による死)を遂げる。
E3でマグヌッセンがレディ・エリザベスにちらつかせるのは、夫のスモールウッド卿ががかつて未成年の女性に対して送った性的関係を匂わせる手紙である。
マグヌッセンが謎の女性スナイパーにあわや殺されかかるシーンでは、シャーロックは上原作エピソードと同様にスナイパーをレディ・エリザベスと勘違いするが、その正体はメアリーであった。
その後、スモールウッド卿は自殺を遂げている。
(ホームズ家で読まれている新聞に記事が見える)
・ご近所の女性が早朝からワトソン邸に駆け込んできて、息子がドラッグ窟から帰ってこないと訴える。連れ戻すべくジョンが向かったところ、そこにはシャーロックもいて大騒ぎ、のシーン
→『唇のねじれた男』冒頭部分より。
帰ってこない薬物中毒者は訴えた女性の息子ではなく、夫である。
(名前は原作がIsa Whitney、E3ではIsaac Whitney。訴える女性の名もケイトで同一である)
薬は原作ではアヘン、E3では不明(恐らくモルヒネ?)
・シャーロックは、マグヌッセンの情報を得るためにメアリーのブライドメイドであったジェニン(実はマグヌッセンの秘書)とつきあって?いる
→『H』より。ホームズはミルヴァートン家のメイドと婚約し情報を得ている。
・シャーロックがマグヌッセンを「水族館のサメのようだ」と評する
→『H』では「動物園の蛇のようだ」と。
・同じく、マグヌッセンを「ブラックメール界のナポレオン」と評する
→『最後の事件』にて、モリアーティを「犯罪のナポレオン」と評している
(Much ado about Benedictさんよりご教示頂きました。ありがとうございました!)
・マグヌッセンの住まいの名は「アップルドー」
→『H』にて、ミルヴァートンの住所は「アップルドー・タワーズ」とある。
・シャーロックはレディ・エリザベスの代理人としてマグヌッセンと交渉しようとする。マグヌッセンは221Bを訪れるも全く話に乗らない
→『H』の冒頭、ミルヴァートンも221Bを訪れている。これは、結婚を前にしてかつてのボーイフレンドに送った手紙をネタに強請られているレディ・イーバ・ブラックウェルの代理人を引き受けたホームズが招いたものである。
だがミルヴァートンが法外な額をふっかけてきたため、交渉は不調に終わる。
・シャーロックがジョンに7ポンド太ったと言い当てる。ジョンは4ポンドだと抵抗するが、僕とメアリーは7ポンドだと思ってるよ、と言い放つ。
→『ボヘミアの醜聞』より。ホームズがワトソンに結婚後7ポンド半太ったといい、いや7ポンドだというワトソンを制し、多分君が思うよりも多めだよ(意訳)と言う。
しかし大の男の体重3ポンド(約1.36kg)の違いを云々する現代ボーイズも大概だが、半ポンド(約230g)を云々する原典ホームズワトソンは驚異的に細かいと言わざるを得ない。
・シャーロックが撃たれた後のマインドパレスで、マイクロフトが「東風が吹いている、お前を捕えるために」と警告する
→『最後の挨拶』より。東風の注釈は後に回す。
・シャーロックとのゴシップをネタに稼いだジェニンはサセックス・ダウンズに家を買う。蜂の巣があるが取り除いてもらうとのこと。
→『最後の挨拶』より。引退したホームズはサセックスのサウスダウンズの小さな農場で養蜂業を営んでいる。
・The empty houseことラインスター・ガーデンズ(Leinster Gardens)は、シャーロックがクラレンス・ハウス(Clarence House)の人食い女との賭けで勝ち取ったものである
①ラインスター・ガーデンズ
→Much ado about Benedictさんが、タンブラーの御訳
http://muchadoaboutbenedict.tumblr.com/post/73149944058/s3-bbc-3-3
内に該当建造物に関するwikipediaを貼ってくださっている。
http://en.wikipedia.org/wiki/Leinster_Gardens
記述はシャーロックの説明とほぼ同じ。
wikipedia記事の最後にはSherlockS3撮影に使われた、とある。
②クラレンスハウス(英皇太子公邸)
→セント・ジェームズ宮殿にある皇太子公邸。
現在、チャールズ皇太子とコーンウォール公爵夫人の住まいである。
1827年、ウィリアム4世(即位前はクラレンス公)の為に建立された。
人食い女は不明。
もしてかしてカ○ラ夫人…?
・上掲、ラインスター・ガーデンズにメアリーをおびき寄せたシャーロックは突然そのファザードに彼女の写真を大きく投影させ、驚く彼女に「ごめん、ドラマ
風の演出をする魅力に抗えなかったんだ(I never could resist a touch of the drama)」という。
→『海外条約事件』より。盗まれた文書を朝食の皿に隠し、依頼主を仰天さしめるシーンでホームズはほぼ同じ台詞「I never can resist a touch of the dramatic」を口にする。
・同じく「The Empty House」内でメアリーがシャーロックのダミー(シルエット)を本人と見誤る
→『空き屋の事件』。ホームズは221Bに自らの胸像を据えつけ、モラン大佐をおびきよせる。
メアリーが射撃の名手であることもモラン大佐を髣髴とさせる。
・メアリーの過去についてのデータが入っているUSBメモリに「A. G. R. A」の文字がある
→『四つの署名』より。事件の鍵となるのは「アグラの財宝」である。
(これはメアリー役、アマンダ・アビントンさんが自らツイッターで呟いていた)
・シャーロックがジョンに自分のフルネームは「ウイリアム・シャーロック・スコット・ホームズ」だと告げる
→『シャーロックホームズ~ガス燈に浮かぶその生涯』より。
シャーロッキアンによる架空の伝記。
因みにジョンのミドルネーム「ヘイミッシュ」も典拠はこの本である。
・シャーロックとジョンの最後の会話、シャーロックが
「The East Wind takes us all in the end.(中略)The East Wind is a terrifying
force that lays waste to all in its path.It seeks out the unworthy and
plucks them from the earth.
東風が最後には皆を連れて行く。東風というものは恐るべき力を持っていて、吹きすさんだ後にはただ荒野が残るのみだ。それは存在するに値しないものを見つけ出し、それらをこの地球上から摘み取るんだ(超意訳)」
という。
→『最後の挨拶』より。
久しぶりに再会し、一仕事終えたホームズとワトソンがひとしきり語り合う。
「There’s an east wind coming, Watson.
東風が吹いてきたね、ワトソン君」
「I think not, Holmes. It is very warm.
そうかい、ホームズ君?とっても暖かいけど」
「Good old Watson! You are the one fixed point in a changing age. There’s
an east wind coming all the same, such a wind as never blew on England
yet. It will be cold and bitter, Watson, and a good many of us may
wither before its blast. But it’s God’s own wind none the less, and a
cleaner, better, stronger land will lie in the sunshine when the storm
has cleared.
古き良きワトソン君よ!君は時代が移り変わっても変わらない。それでもやはり、東風は吹いているんだー今までイギリスに吹いたことの無いような風だよ。
きっと冷たくて厳しい風になるよ、ワトソン君。そしてこの風を受けて我が国の良きものの多くが滅びるだろう。しかし、それでもこれは神の意による風に他な
らない。そして、嵐が去った後には、より清らかでより良く、そしてより強い国が陽の光を浴びて現れることだろう」(意訳)
S3の台詞では原典と同様、東風が強力であること、様々なものを滅ぼすであろうこと、しかしそれが浄化の効力を持つこと等が述べられている。
原典で東風という語に仮託されているのは勿論、第一次世界大戦である。
(番外編)「東風East Wind」のイメージについて
イギリスに於いての「東風」は、日本でイメージされるような春を呼ぶ「東風(こち)」のような長閑なものではなく、遙か北海から吹きつけてくる冷たく厳しい湿気を含んだ風である。
以下、文学作品等に見える東風のイメージを少し羅列する。
・聖書
(勿論聖書内で述べられる東風はイギリスでのそれとは全く異なるが、参考迄に)
①創世記41章(所謂ヨセフ譚)
監獄に入れられたヨセフがファラオの夢を解き明かすシーン。
豊かに実っていた7つの穂が、東風に吹かれ干からびた7つの穂に飲み込まれてしまうという夢を、7年間の豊作ののち7年間飢饉が訪れる予知夢だと看破する。
この「東風」は所謂「カムシン」(欧州ではシロッコとして知られる)という、春に吹く砂混じりの熱風のこと。
②出エジプト記(いなごの災い)
ユダヤの民を去らせよとの神のお告げを聞かないファラオ(ひいてはエジプト)に対して下される災いの8番目。
東風が大量のいなごをエジプトの地に運び、結果緑の物は何一つ残らなかったという。
この東風も上掲のカムシンに同じ。
・マザー・グース「When the wind lies in the east」より:
When the wind lies in the east,
'Tis neither good for man nor beast;
風が東から吹いてくるときには
人にとっても獣にとってもいいことはない
と。
因みにこの後はこう続く。
When the wind lies in the north,
The skilful fisher goes not forth;
When the wind lies in the south,
It blows the bait in fishes' mouths;
When the wind lies in the west,
Then 'tis at the very best.
要は好意的に受けとめられているのは西風のみである。
ゼピュロスのイメージか?
・『メアリー・ポピンズ』
彼女がバンクス家にやってくるのは「東風に乗って」。
去るときには西風に乗っていく。
・『指輪物語』
ボロミアの亡骸をアンドゥインに送り出した後、亡き人を偲びアラゴルンとレゴラスは葬送の歌を3節歌う。
それは西風に/南風に/北風に、ボロミアの知らせを問う(が結局不明である)という内容の歌であった。
それを受け、ギムリは「あなたがたは東風をわたしに残して下さったが、わたしは東風のことは何も歌いませんからね」
という。
これにアラゴルンは「そりゃ当然そういうことになる。ミナス・ティリスでは、みんな東風に耐えてはいるが、それに頼りを求めはしない(後略)」と答える。
→これはミナス・ティリス(ゴンドール)の東方にモルドールが位置するということを示唆している。
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